死ぬにはまだ早い

 齢七十を超えてバカなことをしてしまったものだと反省し後悔している。でも今更取り返しはつかない。この先の人生で何とかしていくしかない。

 そう思ったのが昨年の9月、2023年のことである。もう半年以上過ぎた。半年以上たってようやく少しは文章にして残そうかという気分になってきた。

 私がそこそこのお金持ちならばこの歳になってこんなみじめな経験はしなくて済んだだろう。毎月の生活費がきつく、なんとか赤字にならない程度で生活していたのだが多少は余裕が欲しくてネット上で(スマホなどを使って)副業をやってみようかと思い立った。

 ちょっと探してみるとあるわあるわ次々と出てくる。まさかと思うような金額で色んな副業が並んでいる。

 明らかに嘘とわかるようなものもあればやってみたいと思うようなものもある。手っ取り早く稼げそうなものもあれば運を天に任せたようなものもある。(競馬とかルーレットなど)

 今はやりの投資ももちろんある。はやりなのは「ほったらかし投資」だろうか。これは例えば株の売り買いをAIに任せるというもので「高度なAI技術を使わなければならないので安いバージョンで30万円、高いバージョンで50万円くらいだったかな。値段の違いは投資できる銘柄の数だったかなと思う。

 でも、AIに任せて株で儲けても全然面白くない。自分で売買を判断してこその面白さだと思う。生活費に余裕を持たせるための副業に面白さもへったくれもあるもんかと思えればいいのだが、自分の心の奥底に持っているプライドみたいなものがAIによる株の売買話には乗らなかった。

 そのほかにも外為取引、せどり。アフリエイトなどなど多岐にわたって副業紹介のラインがありX(ツイッター)がある。 

 私は多少のうぬぼれもあり騙されない自信もあった。

 しかし、欲は人間を盲目にする。

 欲に目がくらんだ私は騙された。何回も騙された。色んなパターンで騙された。この愚かさは自分にも理解出来ないところがある。 

 今は冷静に振り返っているからそう思えるのであってもしもっとお金があったならば未だ騙され続けていたかもしれない。

 よくテレビや新聞で何千万何億と騙された人のニュースが流れているが其々の方の身の丈に合った騙され方をしているということを知った。総資産十億の人は20億も騙されない。まれに例外はあるかもしれないが。

 私は総額三百万ほど騙された。多分。大小含めていろんな騙され方をしているので総額がいくらになるのか把握できないのだ。カードのリボ払いの金額を合計するとそのくらいになるので多分その位騙されているのだろう、と思う。

 リボ払いの金額を払いきれなくなって会社に電話が来たり督促状が頻繁に来るようになって「こんな惨めな思いをするくらいなら死んだ方がましかもしれない」と思うようになった。毎朝会社に行くとき駅のホームで線路の上に飛び降りたら楽になるぞ、と悪魔の声がよく聞こえた。

それを思い止まらせてくれたのは「親父やおふくろに合わせる顔がない」といった、私を可愛がり信じきっていた両親の姿である。

 毎朝お経をあげながら両親の顔を見ている。それが私の命を救ってくれたのかもしれない。

 父親の声が聞こえる。

「死ぬのはまだ早かんべ。ちゃんと借金返してからこっちに来いよ。騙されたのはしょうがねえけど借金踏み倒すのはよくねえぞ」

 と糞真面目に生きたおやじの声が聞こえる。

 そうだ。ともかくバカな自分を見つめながら借金を返そう。辛い日々だが逃げずに返し切ってから後のことは考えよう。

 死ぬのはまだ早い。俺はまだ生きて借金を返し切ってから後のことは考える。人としてやることをやってから後のことは考えよう。

 こう心に決めると気持ちが楽になった。死の誘惑の悪魔からは離れることができた。

 死ぬのはまだ早いが給料の半分を返済に充てながら生きていくのも大変だ。

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